2014年06月24日
驚異!防炎カーテンの威力
美鈴は全速力で走り、よく高大が、親友の中山剛(つよし)と遊んでいる開き地に辿り着く。
案の定、二人はそこにいた。
高大が、カーテンをマントのようにかむり、その裾に剛がジッポーで火をつけようとしている。
「あれ、付かないなぁ」
そんなことをぼやいている二人を、美鈴は、ぶん殴ると、家に連れて帰った。
和美は、美鈴に現行犯逮捕された高大と剛から、ジッポーを返してもらい、ご機嫌で言った。
「まったく、今どきの子供も、やるこたぁ、昔と変わんないね」
和美の落ち付きように、美鈴が食ってかかる。
「よく、ママは心配しないでいれたよね。もし、カーテンに火がついていたら、今頃、高大は大やけどよ!」
その言葉に、高大も剛も事の成り行きを想像し、身を震わせる。
一方、和美は、ジッポーで新しい煙草に火をつけて、悠々と煙をはいた。
「バカだね、うちのオーダーカーテンは全部防炎カーテンだから、火はつきにくいの。まさか美鈴も知らなかったのかい?」
豪快に笑う和美。赤面する美鈴。
そしてホッとしながらも、しょんぼりする高大と剛。
「子供は、昔みたいな遊びをしたがるけど、時代は確実に変わってんだよ。おかげで少年二人は怪我もなく済んだってわけさ。ありがたいもんだね」
和美は愉快そうに子供たちをみて、笑った。
タグ :オーダーカーテン
2014年06月21日
ライターで、火を付けるつもりよ
ある日、美鈴が学校から帰宅すると、大きな紙袋を抱えた高大とすれ違った。
「何持ってんの? どこ行くの?」
美鈴の問いに、無言のままコソコソと家を出ていく高大。
しばらくぼんやりしていたが、着替えをしようと、洋服が散乱している物置兼洋服部屋に入ると、美鈴は、そこの小窓にかかっていた、両開きの深緑のカーテンの一方がなくなっていることに気付く。
「え!? まさか・・・?」
美鈴が部屋から飛び出してきたとき、ちょうど和美がパートから帰って来た。
煙草を吸いながら、大きな買い物袋をさげた和美はびっくりする。
「な、なんだ? ドロボーか?」
美鈴は和美にすがりつく。
「ママ、大変、さっき、高大が、洋服部屋のカーテンを持って・・・!」
和美はちょっと考える。
「・・・ああ、緑だったね、あのカーテン」
「あの子、きっと・・・!」
そう言いかけた美鈴を制し、和美は、リビングに向かい、くすりと笑う。
「参ったねー、あたしが、一番大事にしてるジッポーまで持ちだした。せめて百円ライターにしてほしかったなぁ」
母の心ない言葉に驚き、美鈴は、高大の後を追おうとする。
「ママは、心配じゃないの!? あの子、ライターで、カーテンのマントに火を付けるつもりよ!」
「そうだろうね」
「消えなかったらどうするの!? っていうか、特撮モノみたいに、なんとかブレスで消えるわけないじゃない!」
和美は、笑っている。美鈴は本気でカッとして
「ママのバカ!」と怒鳴ると、玄関を飛び出して行った。
2014年06月09日
正義の味方、グリーン・マン
佐藤高大(たかお)は、姉の美鈴(みすず)とTVで実写版の戦隊モノを観ていた。
「へー、いまだにこんなの流行ってんだ。古くさい」
中学2年生の美鈴には、特撮モノが偽物くさくて、バカバカしく感じられる。
しかし小学1年生の高大は、夢中になって観ている。
正義の味方、グリーン・マンが、敵のファイヤー・モンスターに、トレードマークの緑のマントに火をつけられる。
「わぁ! マントが・・・!」
そう叫ぶ高大を横目に、美鈴も番組を見ていると、世紀のヒーローのグリーン・マンは自らの特技、ジェット・ブレスなるもので、その火を吹き消し、事なきをえる。
思わず声を立てて笑ってしまう美鈴。
しかし、高大は、真顔で美鈴に言った。
「僕、グリーン・マンになる!」
くわえ煙草で、夕ご飯の準備をしていた母の和美はキッチンで爆笑する。
「バカ言ってんじゃないよ。グリーン・マンになる前に、早く社会人になって、シングルマザーを楽にさせてくれるほうが先だろ」
和美は、出来たてのオムライスを、美鈴と高大に差し出しながらそう言った。
二人はうれしそうにケチャップで、それぞれの好きな絵を描く。
美鈴はチューリップ、高大は、かろうじてグリーン・マンに見える人物像。
「高大、ケチャップ使い過ぎ!」
母親のダメだしに、高大は、へへっと笑った。